かゆみが止まらないのに、皮膚科専門医3人に『湿疹ですね』と言われた──見逃される疥癬
今回は疥癬について、説明します。
疥癬患者は秋に増加する傾向にあるといわれています。
今回は疥癬診療ガイドライン(第3版)に沿って、私の経験した患者を紹介します。
症例提示
77歳男性。数週間続く強いかゆみを主訴に来院。特に夜間の痒みが強く、激しい痒みのために救急車を呼ぶこともあった。
これまで皮膚科専門医3人に診察をされ「湿疹」「皮膚掻痒症」「痒疹」と診断され、抗アレルギー薬、ステロイド外用を続けるも改善せず。
四肢、体幹、手掌、指間に掻痒感の強い丘疹と掻破痕を認めた。
ダーモスコピーで手掌・指間に疥癬トンネルあり、疥癬トンネル内に“デルタサイン(疥癬虫の頭部)”を確認した。
KOH直接鏡検法で疥癬虫体、虫卵を検出し、疥癬と診断した。
| 胸部 | 背部 |
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手背(画像を拡大して良く見てください) |
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| 手掌(こちらも拡大して良く見てください) |
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| 指間 |
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皮膚症状から疥癬を強く疑ったので、KOH直接鏡検法を行いました。
虫体、虫卵を発見し、疥癬の診断に至りました。
疥癬とは
疥癬(Scabies)は、ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. hominis)が皮膚の角層内に寄生する感染症です。
強いかゆみと特徴的な皮疹を呈しますが、湿疹やアトピー性皮膚炎と誤診されやすいのが特徴です。
疥癬の感染経路とリスク
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主に皮膚の直接接触による感染
- 感染後、約1~2ヵ月の無症状の潜伏期間があり症状が出る
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高齢者施設、介護現場、家族内での感染が多い
肉眼所見とダーモスコピー所見
| 所見 | 内容 |
|---|---|
| 通常疥癬 |
①手関節屈側、手指間、指側面の疥癬トンネル 水尾徴候:高齢者では水尾(みお、wake)型になることもあり ②臍部、胸部、腹部の激しい痒みを伴った丘疹 ③陰部の小豆大で赤褐色の激しい痒みを伴った結節 |
| ダーモスコピー | トンネルの先端に黒い三角形=デルタサイン(疥癬虫の頭部) |
| 角化型疥癬 | 厚い鱗屑・痂皮、全身性、感染力が非常に強い |
| 肉眼所見 |
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| 赤線で囲った部分のダーモスコピー画像 |
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白い線が全て疥癬が角層内を掘り進んだ穴です。(疥癬の通過したトンネル)
トンネルの先端に黒褐色の三角形がわかりますでしょうか?

これがデルタサインです。疥癬の顎体部と前二対の脚を反映した所見といわれています。この部分をあまり切れないように加工したメス刃で削り、KOH直接鏡検法で観察します。

います。
その他に虫卵も確認しました。この時点で疥癬の診断になります。
診断のポイント(疥癬診療ガイドライン第3版より)
①臨床症状
②顕微鏡検査やダーモスコピー検査でヒゼンダニの検出
③疥癬患者との接触機会を含めた状況
の3項目を勘案して診断します。ヒゼンダニが検出されれば「確定診断」になります。
治療
■ 通常疥癬
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フェノトリン外用(スミスリン®ローション)
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イベルメクチン内服(ストロメクトール®)
体重に応じた1回投与(200 μg/kg)、1〜2週間後に再投与を行う
疥癬の治療は、①ヒゼンダニが検出され確定診断された患者、または、②確定診断された患者と接触の機会があり、かつ疥癬の臨床症状を明らかに呈する患者に行います。
まとめ
疥癬は珍しい病気ではありません。
皮膚科専門医でも見逃すことがあります。
「かゆみが強いのに治らない湿疹」を見たら、疥癬の可能性も考慮することが重要です。
ダーモスコピーは診断精度を大きく高める有力なツールです。
水道橋駅前こばやし皮フ科形成外科 小林光







